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不正とは何か?定義と要件

  1.  不正とは何かは定義されていない。 

不正について論じる前に、まず不正とは何か、何の話をしているのかを明らかにする必要があるが、不正を定義するのは容易でなく、まずもって国内において、あるいは国際的にコンセンサスを得た不正の定義は存在しない。
 
 そこで、一般に不正と聞いてイメージするものと言えば、給付金等の不正受給、脱税、会計不正(粉飾)、会社資金の横領、談合、選挙における有権者の買収、耐震偽装、食品産地偽装、パスポート偽造、詐欺、研究不正などがあげられるだろう。
 これらの行為は各国において法律上の違法行為となっている。日本で言えば、民法や会社法、刑法、金融商品取引法、食品表示法や公職選挙法等である。しかし、倫理的な観点から列への割り込みやカンニングなども不正と表現する人もいるだろうし、不正という表現は、かならずしも違法とされているものに限らないといえる。

一方、法律違反行為であっても、例えば殺人や暴行を「不正」と表現する人は少ないのではないだろうか。やはり「不正」だと認識するには何かしらの特性、不正の要件があるのである。ここで辞書をひいてみると、広辞苑は、不正を「ただしくないこと。正義でないこと。よこしまなこと。」としており、かなり広範に不正を定義している。これでは何をもって正しいのか、正義とは何か、よこしまとは何かという議論になってしまう。
海外の英英辞典によると不正=Fraudを以下のように訳しており、これは不正の特性を明示し、かなり思い切った定義をしているといえよう。
Oxford英英辞典:
Wrongful or criminal deception intended to result in financial or personal gain.
この定義は不正の特性を、欺くこと(deception)と、利得を得ることを目的としているという2点を不正の要件としている。
LONGMAN英英辞典:
the crime of deceiving people in order to gain something such as money or goods
この定義も、金銭等を得るために、人を欺く犯罪行為としており、Oxford英英辞典の定義に近しいだろう。

前述の通り、不正の定義に関するコンセンサスはないが、不正行為について包括的に定めたおそらく世界で唯一の法律として、英国にFraud Act 2006がある。この法律は適用範囲を以下のように規定しているので紹介したい。

Fraud(不正)
(1)A person is guilty of fraud if he is in breach of any of the sections listed in subsection (2) (which provide for different ways of committing the offence).
以下(2)に列挙された違反行為を行った場合、その人物は不正行為を行ったものとして有罪となる。
(2)The sections are—
(a)section 2 (fraud by false representation),虚偽の表明
(b)section 3 (fraud by failing to disclose information), 情報を開示しないことand
(c)section 4 (fraud by abuse of position).権限の乱用

上記の要件によれば、英英辞典で言う利得を得る目的は必要としていない点に特徴がある。また、例えば悪意なく(開示すべきだった)情報を開示しなかったケースも定義上は該当してしまいうるが、これは判例の中で、dishonestly(不誠実に)お開示しなかったケースが該当することとされ、これはつまり不正の要件としてDishonestly‘(悪意も含む概念と考えられる)があることを示している。

2. Accfamの定義する不正

私個人の見解としては、不正には「人を欺く」という要件が含まれると思われ、個人的にはこの要素がある限りにおいて不正である。自ら宣言・主張したこと(決算書であったり資金使途・事業内容・活動内容等)に対して人を欺いているゆえにその実態を公に説明できないこと、つまりUnaccountabilityこそが不正であると考えている。不正はAccountabilityの問題である。

どんなに崇高なビジョンや理念、趣旨を持った官民組織においても、その活動内容の報告やその実態に嘘偽りがあれば、内外の人を欺く行為があれば、もともこもないのではないか。SDGsをうたう企業、慈善活動をうたうNGO/NPO/慈善団体、業績を公表する企業、健全かつクリーンでトランスペアレントな行政執行をうたう政府・・・官民活動のいずれにおいても、人を欺く行為は起こりうるし、そのマグニチュードは計り知れない。自らの属する組織に不正のないことをなぜ信じられるのか。不正は悪意あるがゆえに、通常隠ぺい(偽証、偽造、偽装等)を伴い、何事もないかのような顔をしている。ゆえにエラーを防止する仕組みでは足りず、不正を起こせない仕組み(ガバナンス体制)を作る必要がある。その点において、会計の発明や各種の内外監査・検査制度の整備が進んできた中で、急速なグローバル化やデジタルトランスフォーメーションなど時代も急激に変化してきた。
そろそろ世界の不正について、アカウンタビリティーの確保について、従来制度はより進化すべきであるし、あるいは新時代のガバナンスが発明されてもいいではないか。不正全般に対する問題意識とともに、こと日本含めた世界中における官民の不正汚職、特にお金に関わる不正を見聞きしてきた私個人としては、「官民資本が誠実に活用されること」ひらたくいえば、官民のお金がちゃんと使われる、お金の使途に関するアカウンタビリティーが確保される仕組みをデザインし、実装すること、それが私個人、そしてAccfamのミッションであり、チャレンジである。これが一生をかけるにたるミッションであると信じたのは、不正がなくなりあるいはコスト最小化され、この非効率がなくなって官民資本が誠実に活用されれば、世界中の多くの経済的に困窮した人々、最も苦しい生活を強いられている人々の生活水準は大幅に改善され、またごく普通の人々の公平感、社会への信頼が向上し、勤労意欲につながり、よい経済循環につながるのではないかと思うほどに、官民不正による社会的な損失は莫大であるとの仮説をもったからである。次回は英国が先進するFraud Loss Measurement(FLM)と呼ばれる不正コストの測定に関する研究について記述する。

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