世界で最も不正対策が進んでいる国と言えば、イギリスであろう。イギリス政府は、早くから国内の官民不正コストが莫大で重大な国家課題であると認識し、このコストを最小化するため、先進した様々な対策を取っている。
英国政府の先鋭的な取り組みのきっかけになったのは2006年に公表された377ページにも及ぶ研究報告書であった。Fraud review reportと題された本報告書は、英国における官民不正の深刻さと社会的影響を記述し、不正の定義づけとともに、不正コストのより精緻な測定の必要性を訴えるとともに、国内の不正を横断的に予防牽制、取り締まる専門機関が必要であること、政府や警察が中心となって、各組織が連携して不正の実態把握や不正被害の防止に取り組むこと等を提言しており、その後実際にNatinal Fraud Agency(NFA)」という世界に類を見ない政府の不正対策に特化した機関が創設される契機となった。本稿では当該Fraud review reportのポイントを概説する。
Fraud review reportの提言概要
以下報告書の提言概要を記述するが、要は不正コストを測定の上、組織横断的、包括的に戦略立てて、不正対策を内外組織と連携して実行すべしという提言である。
なお、NFAは2014年にその機能を、不正リスク分析と戦略立案(Strategic development and threat analysis)機能をthe National Crime Agencyに移管し、不正嫌疑の捜査(Action Fraud)機能をロンドン警察(the City of London Police), the e-confidence campaignについては、内務省(Home Office)、the development of the Counter-fraud Checking Service(不正監視サービスの開発)は内閣府に継承する形で解散している。
また、ここで提起された不正コストの測定(Fraud Loss Measurement:FLM)はよりイギリス国内で手法の研究や実証が進み、またイギリスの先行事例をもとに、昨今欧米を中心に広がりを見せつつあるが、日本含むアジアでの導入事例はまだない。このFLMは、簡単にいえば、統計学的に有効なサンプル数を抜き出して精密な調査を実施し、発見された不正の件数・金額から、全体の不正金額を推定して算出する手法がとられる。従って、当該FLMの利用が適した領域はあり、母集団が定型的で同質な支払、例えば保険金の支払いや年金はじめ各種の社会保障給付等が適しているとされる。社会保障費や医療費の増大が見込まれる日本においては他のアジア諸国の導入に先駆けたFLM導入が期待されるところである。
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。