本年予算案は 法人・個人税率そのものは一部を除き大きくは変わらない一方、申告インセンティブ、源泉税不履行時の取扱い、VAT申告サイクル、BIN登録、輸入サービスVAT、電子記録・ERP対応など、実務運用面の変更が目立ちました。
1. エグゼクティブ・サマリー
| 項目 | 2026年改正案の要点 | 日系企業への示唆 |
| 法人税 | 一般非上場会社は27.5%で継続。上場会社は銀行取引要件を満たす場合に低い税率が適用される設計が継続。 | 大幅な税率引下げではなく、銀行取引・透明性・申告管理の徹底が優遇適用の前提。 |
| 個人所得税 | AY2026-27/2027-28の税率表は2025年時点の提案と概ね同じ。AY2028-29以降に非課税枠拡大、超高所得層に35%ブラケット導入。 | 駐在員給与設計では将来年度の最高税率35%導入を織り込む必要。 |
| 源泉税・申告 | 源泉税不履行について、ショートフォール額に追加50%の税を上乗せ。早期申告には5%リベート、遅延申告には追加税。 | 「未控除・未納付=損金不算入」だけでなく、資金負担としても重い。WHTカレンダーとレビュー体制が重要。 |
| VAT | 四半期申告へ移行。ただし月次で暫定納付。輸入サービスVATは銀行による源泉納付フローが明確化。 | VAT申告は楽になるというより、月次納付・四半期精算・証憑管理の設計変更が必要。 |
| デジタル・PE | 10万人以上のオンライン顧客・登録者等を持つ非居住者のデジタルPEが明記。電子的販売も課税所得の範囲に。 | 越境EC、SaaS、デジタル広告、オンライン教育等はPE・WHT・VATの三点確認が必要。 |
| 投資優遇 | スタートアップ、ソーラー、EV・家電・IT関連製造等の優遇が継続・拡充。 | 製造投資・再エネ・デジタル領域は優遇活用余地が大きい。 |
2. 2025年改正と2026年改正案の主な比較
| 論点 | 2025年改正 | 2026年改正案 | 変更点・解説 |
| 個人所得税率 | AY2026-27/2027-28について、一般非課税枠BDT375,000、最高30%までの税率表を提案。 | AY2026-27/2027-28は同じ。AY2028-29/2029-30は非課税枠BDT400,000、AY2030-31はBDT450,000。AY2028-29以降は35%ブラケット導入。 | 短期的には変更なし。中長期では高所得層に増税方向。 |
| 最低税 | 地域別にBDT3,000/4,000/5,000。AY2026-27以降はBDT5,000、新規納税者BDT1,000。 | AY2026-27からAY2030-31までBDT5,000、新規納税者BDT1,000。 | 地域差をなくし一律化。 |
| サーチャージ | 富裕層サーチャージ10%/20%/30%/35%は維持。 | AY2026-27からAY2030-31まで同水準。 | 変更なし。 |
| 環境サーチャージ | 排気量・kW別の金額を提示。EVへの環境サーチャージ撤廃を提案。 | 排気量別の金額は同水準。EVのkW表示は表から外れ、複数車両保有時の徴収ルールは維持。 | 社用車が複数ある場合は引き続き対象。EV優遇は継続方向。 |
| 投資税額リベート | 3% of taxable income、15% of actual investment、BDT1.0 millionのいずれか低い額。 | 3% of taxable income、10% of actual investment、BDT0.75 millionのいずれか低い額。 | 個人投資控除は縮小。 |
| 資産・負債・生活様式明細 | 一定の富裕層・自動車保有者・会社株主取締役等に提出義務。 | 不足・不完全・課税上必要な場合にDCTが提出通知を発出。従わない場合、申告が不完全・無効扱い。 | 形式的な義務から、税務調査・申告完全性に紐づく運用へ。 |
| 法人税率 | 一般非上場会社27.5%。上場会社はIPO比率・銀行取引要件により20%/22.5%等。 | AY2026-27〜2030-31で同様の骨格。一般非上場会社27.5%、上場金融機関37.5%、非上場金融機関40%、教育機関10%。 | |
| 源泉税不履行 | 2025資料では主として最低税・WHT項目別改正を整理。 | 源泉税の未控除・未徴収・未納付について、ショートフォール額に追加50%の税を上乗せ。Section 55で否認された費用は事業・専門職所得扱い。 | |
| 申告インセンティブ・遅延税 | N/A | 早期申告は税額5%リベート(上限BDT25,000)。遅延申告は個人・法人で追加税。 | 申告期限管理が直接の税コストに。 |
| 税務争訟の前納 | N/A | CT(A) 1%、Tribunal 3%、High Court 10%。前納免除は廃止提案。 | 前納率は下がるが、免除余地は狭まる。 |
| PE・電子的販売 | N/A | 非居住者の10万人以上のデジタル/オンライン顧客・登録者をPEに含める。電子的手段による販売を国内源泉所得範囲に。 | 越境デジタル取引の課税リスクが明確化。 |
| VAT申告 | 月次VAT申告が基本。 | 四半期VAT申告へ。ただし毎月15日以内の暫定納付、四半期申告で調整。 | 月次決算・VAT台帳は引き続き必要。 |
| 輸入サービスVAT | リバースチャージを含む従来整理。 | 銀行が支払時にVATを源泉控除・納付し、チャランを輸入者に提供。輸入者はVAT申告で出力・仕入控除を処理。 | 海外グループ会社・海外ベンダー費用の契約、請求、銀行送金フローの確認が必須。 |
| BIN登録 | VAT登録・エンリストメントの通常論点。 | 銀行口座、融資、営業許可、車両登録、電気・ガス接続、業界団体加入等でBIN/登録証明が必要。 | 小規模・免税事業者でもビジネス上BINが事実上必須になり得る。 |
| 電子記録・ERP | 電子対応は限定的。 | ERP・指定VATソフトでの電子記録保存が法的証拠として認められ、電子提出も可能。 | ERP・会計システムとVAT証憑の整合性が重要。 |
3. 法人税:税率は概ね維持、ただし銀行取引・透明性要件が重要
2026年改正案では、法人税率の基本構造は2025年改正から大きく変わっていません。一般非上場会社は27.5%、非上場の銀行・保険・金融機関は40%、たばこ関連は45%、携帯電話事業者も基本45%です。一方、上場会社については、IPO比率や全取引を銀行経由で行うことを前提に低い税率が適用される構造が続きます。
| 企業区分 | 2025年改正(主にAY2026-27) | 2026年改正案(AY2026-27〜2030-31) | コメント |
| IPO等で払込資本10%以上を移転した上場会社 | 20%*(2025資料ではAY2026-27/2027-28も20%) | 22.5% / 20%* | 2026資料では標準22.5%、銀行取引要件充足時20%と整理。 |
| その他上場会社 | 2025資料ではAY2026-27以降「Not specified」の箇所あり | 27.5% / 25%* | 銀行取引要件充足時25%。 |
| 一般非上場会社 | 27.5% | 27.5% | 変更なし。 |
| 上場銀行・保険・金融機関(Merchant Bank除く) | 37.5% | 37.5% | 変更なし。 |
| 非上場銀行・保険・金融機関 | 40% | 40% | 変更なし。 |
| 信託・AOP・パートナーシップ | 27.5% | 27.5% | 変更なし。 |
| 協同組合 | 20% | 20% | 変更なし。 |
| 私立大学・医科大・歯科大・工科大・IT系私立カレッジ | 10% | 10% | 変更なし。ただし障害者移動に係る適切な措置がない教育機関には2.5%サーチャージ。 |
* 低い税率の適用には「その年のすべての所得が銀行振込で行われること」が条件とされています。現金売上を適切に銀行口座へ入金した場合もBank Transferとして扱う定義が示されました。
4. 個人所得税・駐在員:短期は維持、将来は最高35%へ
| 年度 | 税率構造 | 実務上の見方 |
| AY2025-26 | BDT350,000まで0%。以降5%、10%、15%、20%、25%、30%。 | 2025年改正時点の実効税率と同様 |
| AY2026-27 / AY2027-28 | BDT375,000まで0%。以降10%、15%、20%、25%、30%。 | 2025年、2026年資料は概ね一致。 |
| AY2028-29 / AY2029-30 | BDT400,000まで0%。以降10%、15%、20%、25%、30%、35%。 | 新たに将来年度の35%ブラケットを提示。 |
| AY2030-31 | BDT450,000まで0%。以降10%、15%、20%、25%、30%、35%。 | 非課税枠は拡大するが、超高所得者は35%に。 |
非居住者については、Bangladeshi non-residentを除く非居住者は総所得に対して一律30%課税とする取扱いが2025年・2026年とも維持されています。外国人駐在員の給与設計では、居住性、国内源泉所得、DTAA適用可否、グロスアップ条項の有無を合わせて確認する必要があります。
5. コンプライアンス:源泉税・申告・財務諸表添付の運用負荷が増加
| 論点 | 2026年改正案 | 日系企業の対応 |
| 源泉税不履行 | 不足額に追加50%の税を上乗せ。 | 「未控除分そのもの」+「不足額の50%」の資金負担。社内承認前にWHT判定を組み込む。 |
| 早期申告リベート | 個人・法人とも税額5%リベート、上限BDT25,000。 | 金額上限は大きくないが、早期決算・申告体制のインセンティブ。 |
| 遅延申告追加税 | 個人は1月以降、法人は一定期間経過後に追加税。6月30日を超える場合はさらに重いペナルティ。 | カレンダー管理と外部CA連携の前倒しが必要。 |
| WHT return | PPP、EC/オンラインマーケット、ホテル・レストラン等、年商BDT100百万超の一定業種・個人事業者に拡大。 | 源泉税申告義務の有無を売上規模・業種で再判定。 |
| 財務諸表・ICS | 売上BDT100百万超または資本BDT50百万超の会社等は、監査済財務報告・Income Computation Sheet(専門家認証)を申告書に添付。 | グループ会社、長期請負、AOP、HUF、一定商社等は対象確認が必要。 |
6. デジタル取引・PE:越境サービスの課税リスクがより明確に
2026年改正案では、恒久的施設(PE)の定義において租税条約の規定を考慮しつつ、バングラデシュ国内に少なくとも0.1 million(10万人)のデジタルまたはオンラインユーザー・登録者を有する非居住者をPEに含める旨が示されています。また、オンライン・オフライン決済を問わず、電子的手段による物品・サービス販売がバングラデシュ国内で発生・発生したとみなされる所得に含まれるとされています。
このため、日系企業が日本・シンガポール・インド等からバングラデシュ向けにSaaS、EC、オンライン教育、デジタル広告、IT保守、プラットフォーム型サービスを提供する場合、法人税PE、非居住者WHT、.l, 輸入サービスVATの三点を同時に確認する必要があります。
7. VAT:四半期申告化と輸入サービスVATの実務設計が最重要
| VAT論点 | 2025年改正 | 2026年改正案 | 変更点・対応 |
| VAT登録・エンリストメント | 売上BDT5百万以下はエンリストメント、BDT5百万超はVAT登録。2025資料上の枠組みを整理。 | 同水準。BDT5百万超はVAT登録義務。 | 閾値自体は大きく変わらない。 |
| BIN義務 | 特定接点でのBIN必須化は2026ほど明確ではない。 | 銀行口座、融資、営業許可、車両登録、電気・ガス接続、業界団体加入等でBINまたは登録証明が必要。 | 事業開始・更新手続き前にBIN整備。 |
| 輸入サービスVAT | リバースチャージ等の従来実務。 | 銀行が支払時にVAT源泉控除・納付し、チャランを輸入者へ共有。輸入者はVAT申告で処理。 | 海外関連者へのサービス料・ロイヤルティ・技術料で要確認。 |
| 仕入税額控除:労働 | 労働はネガティブリスト上の扱いに注意。 | 「Labour」がネガティブインプットリストから除外され、inputとして扱われる方向。 | 人材派遣・外注サービス費のVAT控除可能性を再検討。 |
| 輸送サービスITC | 80%控除。 | 100%控除へ。 | 物流費のVAT回収可能性が改善。 |
| VAT申告 | 月次申告。 | 四半期申告。ただし月次で暫定VATを15日以内に納付し、四半期申告で最終調整。 | 月次納付管理は残る。 |
| 電子記録・ERP | 限定的。 | ERPまたは指定VATソフトによる電子記録保存を法的証拠として認定。電子提出も可能。 | ERP・Mushak・会計帳簿の連携が重要。 |
| VAT不服申立の前納 | 従来より高い水準。 | Appeal Commissioner、Tribunal、High Courtで争訟VATの前納率を大幅引下げ。 | 争訟コストは低下。ただし書類・証拠管理がより重要。 |
| スタートアップ | 限定的。 | 2026年7月1日〜2035年6月30日、登録スタートアップは国内供給、輸入サービス、オフィス賃料VAT、源泉VATで優遇。 | スタートアップ登録・ERP要件の確認が必要。 |
8. 製造業・投資優遇:EV、IT、家電、再エネは引き続き優遇
2026年改正案では、VAT・関税・所得税の各領域で、スタートアップ、再生可能エネルギー、IT・デジタル機器、EV、家電関連製造に対する優遇が目立ちます。KPMG資料では、ソーラー発電所による再生可能電力の発電・供給所得について、一定条件のもと2035年6月30日まで所得税免税が示されています。
VAT領域では、コンピュータ・アクセサリー製造、冷蔵庫・エアコン・コンプレッサー等、携帯電話製造・組立、EV関連などに関するSRO上の優遇継続・変更が列挙されています。具体的な適用にはHSコード、SRO、製造工程、ローカル付加価値、登録要件を個別に確認する必要があります。
9. 日系企業向けチェックリスト
- 全取引を銀行経由にできているか。現金売上がある場合、適切に銀行入金・記録されているか。
- 上場・非上場、金融機関、教育機関、スタートアップ等の区分と適用税率を再確認したか。
- 源泉税判定表を支払種別ごとに更新したか。特に非居住者サービス、技術支援、広告、デジタルマーケティング、利息、ロイヤルティ、輸送等。
- WHT未控除・未納付時の追加50%負担を前提に、支払承認プロセスに税務レビューを組み込んだか。
- 輸入サービスVATについて、銀行控除、チャラン受領、VAT申告での出力・仕入控除処理までのフローを定義したか。
- VAT申告が四半期化しても、月次暫定納付に必要な売上・仕入・輸入サービス情報を締められるか。
- BINが銀行口座、融資、営業許可、車両登録、電気・ガス接続、業界団体加入に対応できる状態か。
- ERP・会計システム上、Mushak/VAT invoice、チャラン、契約書、支払証憑が紐づくか。
- 越境デジタル取引について、10万人ユーザー基準、PE、WHT、VAT、DTAAの観点から確認したか。
- 売上BDT100百万超または資本BDT50百万超の場合、監査済財務報告・Income Computation Sheetの準備体制があるか。
- 税務争訟がある場合、新しい前納率と免除制度廃止の影響を見積もったか。
- EV、再エネ、IT機器、家電、スタートアップ等の優遇を活用できる事業計画がないか。
10. まとめ
FY2026-27の税制改正案は、単純な税率変更というより、税務・VATコンプライアンスの実務運用を大きく変える内容です。2025年改正で提示されていた個人税率・法人税率の骨格は概ね維持される一方、2026年改正案では、源泉税不履行時の追加負担、早期・遅延申告のインセンティブ/ペナルティ、デジタルPE、輸入サービスVAT、四半期VAT申告、BIN登録、電子記録保存など、企業の日々のオペレーションに直結する変更が前面に出ています。
バングラデシュ進出企業、特に日系企業は、2026年7月以降の実務開始に向けて、税率表の確認にとどまらず、支払・送金・VAT申告・ERP・証憑保存・グループ間契約の見直しを早めに進めることが重要です。
免責: 本稿は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務・法務アドバイスではありません。個別案件については、最終法令、SRO、NBR通達、租税条約および個別事実関係に基づき専門家へご相談ください。
