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政府行政執行における不正の包括的な戦略立案、予防牽制捜査機関の必要性ー先行するイギリスの事例から

世界で最も不正対策が進んでいる国と言えば、イギリスであろう。イギリス政府は、早くから国内の官民不正コストが莫大で重大な国家課題であると認識し、このコストを最小化するため、先進した様々な対策を取っている。

英国政府の先鋭的な取り組みのきっかけになったのは2006年に公表された377ページにも及ぶ研究報告書であった。Fraud review reportと題された本報告書は、英国における官民不正の深刻さと社会的影響を記述し、不正の定義づけとともに、不正コストのより精緻な測定の必要性を訴えるとともに、国内の不正を横断的に予防牽制、取り締まる専門機関が必要であること、政府や警察が中心となって、各組織が連携して不正の実態把握や不正被害の防止に取り組むこと等を提言しており、その後実際にNatinal Fraud Agency(NFA)」という世界に類を見ない政府の不正対策に特化した機関が創設される契機となった。本稿では当該Fraud review reportのポイントを概説する。

Fraud review reportの提言概要

以下報告書の提言概要を記述するが、要は不正コストを測定の上、組織横断的、包括的に戦略立てて、不正対策を内外組織と連携して実行すべしという提言である。

  • 不正対策戦略立案:【提言】中央政府内に、National Fraud Strategic Authority (NFSA) 国家不正戦略局を設置すること。A Multi-Agency Co-ordination Group (MACG)を創設して、NFSAが各関連省庁と連携して動けるような仕組みとすること。
  • 不正コストの測定:【提言】National Fraud Strategic Authority (NFSA) 国家不正戦略局内に、不正コストの測定部(Measurement Unit)を設けるべきであること。
  • 通報制度:【提言】A National Fraud Reporting Centre(NFRC)国家不正通報センターを国家の中心的警察当局National Lead (Police) Force(=ロンドン警察が該当)内に設置すること。NFRCは国内外のパートナーと連携できるような体制とすること。当該NFRCは外部(個人や規制当局等含む)からの不正に関する通報を受けつけ、独自の規準に基づき、案件のスクリーニングを行い、リソース配分して対応すること。
  • 情報共有:【提言】NFRCは不正行為者に関する情報収集を行えるよう外部パートナーを特定し、連携体制を構築すること。各政府機関が有している情報の照合を通じて、潜在的な不正を追究すること。
  • 不正の予防:国家反不正イニシアティブNational Fraud Initiative (NFI)をより各政府機関内に根付かせるとともに、National Audit Office国家監査局(日本でいう会計検査院)は、パブリックセクターにおける不正の予防対策の設計運用に対して、より積極的案役割を果たすこと。NFRCは国家的な反不正キャンペーンを推進すること。マスメディアと連携して、不正事例の共有などを行い、警告を発すること。NFRCは、各不正行為に対する有効な不正対策施策を考案し、キャンペーンをはり、また関係者に情報共有すること。啓もう活動を関係各所に行うこと。各政府機関は、各組織の不正コストの測定とリスクアセスメントを行うこと。
  • 不正の調査:【提言】内務大臣(Home Secretary)は、不正の監視を重要課題と位置づけ、年間計画に含めること。不正に対する捜査当局は不正の監視成果の目標設定も含めた計画を立案すること。警察当局に一定レベルの不正の捜査権限を付与すべきである。不正調査の特殊部隊を創設すべきである。
  • 不正の罰則・起訴:【提言】不正に対する罰として、各種の罰則(企業の解散命令や被害者への補償等)を追加すべきである。財務不正を取り扱う管轄を高等裁判所に創設すべきである。不正に関する量刑決定のガイドラインを作成すべきである。最大10年の禁固刑とされている横領罪や企業犯罪は、14年まで延長すべきである。
  • 司法取引:【提言】司法取引制度の導入について検討すべきである。

なお、NFAは2014年にその機能を、不正リスク分析と戦略立案(Strategic development and threat analysis)機能をthe National Crime Agencyに移管し、不正嫌疑の捜査(Action Fraud)機能をロンドン警察(the City of London Police), the e-confidence campaignについては、内務省(Home Office)、the development of the Counter-fraud Checking Service(不正監視サービスの開発)は内閣府に継承する形で解散している。

また、ここで提起された不正コストの測定(Fraud Loss Measurement:FLM)はよりイギリス国内で手法の研究や実証が進み、またイギリスの先行事例をもとに、昨今欧米を中心に広がりを見せつつあるが、日本含むアジアでの導入事例はまだない。このFLMは、簡単にいえば、統計学的に有効なサンプル数を抜き出して精密な調査を実施し、発見された不正の件数・金額から、全体の不正金額を推定して算出する手法がとられる。従って、当該FLMの利用が適した領域はあり、母集団が定型的で同質な支払、例えば保険金の支払いや年金はじめ各種の社会保障給付等が適しているとされる。社会保障費や医療費の増大が見込まれる日本においては他のアジア諸国の導入に先駆けたFLM導入が期待されるところである。

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